夏はお祭りの季節。歴史のある都市のお祭りで登場する、豪華な飾りつけで街中を移動する山車(だし)は見どころのひとつです。そんな山車ですが、無知な私は何となく「絢爛で賑やかだな」という見方しかしてこなかったので、山車についての歴史や観賞ポイントなどを調べてみました。
目次
1.山車の由来
山車というのは漢字にあるとおり「山」を由来としたもの。旧来から「神は山岳や山頂の岩や木を依り代として天から降臨する」と言われているとおり、山岳信仰が元になっているのだとか。元々は山岳や山麓を中心に建てられた神社が次第に平野にも出来始める中で、平地を巡行する神社として山車が登場するようになったのだそうです。
山車に「だし」という読み方が当てられたのは、神社の外に出す「出し物」だからというのが一説。土地によっては山車ではなく曳山(ひきやま)と呼ぶこともあり、やはり山を由来として曳く(巡行する)ということが由来となっているようです。
2.各パーツの見どころ
山車は神輿(みこし)などを含めた出し物の総称を指す場合もありますが、一般的には車輪を有していて人が引っ張る形で巡行するものを山車と呼びます。色々と見るポイントがありますので、隅から隅まで見てみると面白いです。
(1)山車の正面 お囃子演奏
やはり山車で一番目立つのは、太鼓、笛などによる、お囃子(おはやし)の演奏がよく見える正面。演奏を主体としたものから踊りや掛け声などを見どころとしているものなど、お祭りによって少なからずアプローチが異なるようです。
例えば八王子まつりではお面を被った踊り手が正面舞台で踊る構成。左には大きい「大太鼓」があり右には小さめな「締太鼓」2つで、踊りに向いた軽快なリズムを奏でます。奥では笛の演奏と鉦の演奏者もいます。
鉦、摺鉦(すりがね)というのは皿やたらいの形をした金属製の楽器で、他の楽器よりも大きい音が出るのが特徴。それゆえ鉦の演奏者がバランスを踏まえて控えめな演奏をしているお祭りもあれば、熊谷うちわ祭りのように主役ばりに大きい音をさせているお祭りもあります。
(2)山車の正面上部 提灯
提灯(ちょうちん)もまた山車を彩る飾りつけのひとつ。山車はひとつの都市の主要駅を中心として複数の町が所有しているケースが多く、複数の町で競い合うことをひとつの見どころとしています。「町名を示した提灯が一番大きくて区別がしやすい」というお祭りも結構見かけます。
提灯が綺麗に見える時間帯は、やはり夜。ライトアップされた山車は眩しいほどに煌びやかで、夕暮れで藍色に変わっていく空とともに美しい光の色合いが映えてきます。山車のあるお祭りは昼過ぎから夜にかけて滞在してゆったり観賞するのがオススメです。
(3)山車の側面 彫り物と飾り物
木造による質感の良さを堪能できる、側面から見る彫り物。木目を残した木に流線型の彫りを感じさせる模様、そして動物や植物をあしらった素敵な彫刻。単体の彫刻とは異なり、側面の長さや広さを利用した連続的な動植物たちが織り成す雰囲気がまた魅力的です。
山車はお祭りによって形が大きく異なり、その形の違いがわかりやすいのが側面からの姿。漆塗りなど赤のアクセントを感じさせる山車もあります。
(4)山車の背面 刺繍
サイドや後ろには豪華な刺繍が施された布をまとっている山車も多いです。特に鶴や龍などの「生き物」が縫ってあることが多く、華やかさの中にどっしりとした落ち着きを感じさせる印象です。
この手の刺繍を見るときのポイントは「立体感」。生き物が平坦なのではなく立体的で今にも動きそうな脈動感を持っているのがいい刺繍なのだと個人的には思います。職人の腕の見せ所、なのでしょう。
(5)山車の頂点 人形飾り
山車のてっぺんには出し入れのできる人形飾りが配置されるタイプをよく見かけます。人形はスサノオなど神話を由来としたものや豊臣秀吉など歴史人物を由来としたものなど様々です。
これらの人形はお祭りの元となっている神社に祀られた神様を由来としているケースが多く、神社の歴史を調べると飾られている人形と結びつくのだそうです。
(6)山車の内部
後輪上部に箱型の部屋がある山車も多く、内部は見えないように幕などで入口をおおわれています。
内部はどうやら演奏者の控室という位置づけになっているようです。同じ人が演奏を長時間行うのではなく交代制を取っていて、中で次の人が待機しているといった具合のようです。夏場に多いお祭りですから、休憩は必至。
どうやら着替えもできるようになっており、衣装ハンガーが用意されていることも。荷物置き場にもなっているようなのですが、何が入っているかはわかりません。
以上のとおり、山車というものは人形、刺繍、彫り物、提灯、お囃子など伝統芸能を集結させた、街の歴史と職人の腕前の集大成と呼べるものと言っていいでしょう。
3.街の地理と山車の構成の関係
実は街によっては山車の構成に制約がかかる場合があります。例えば坂が多い街の場合は山車をあまり高くしすぎると転倒の恐れがあるため、頂点の人形飾りを断念するといった具合です。
電線が張り巡らされた街も山車の高さに限界が出てしまうこともあり、人形を出し入れすることで電線地帯を切り抜ける山車もあります。電線の地中化を早くから達成している埼玉県の川越などは山車の人形を常に出し続けることができ、高さがあって見応えがある上に青い空と伝統的な町並みの屋根がよく見えて写真も綺麗に撮れます。
4.街の財力と山車の構成の関係
こういったお祭りの規模というのは街の財力を示すひとつのパラメータと言っても過言ではありません。山車を沢山有する街というのは古くからの産業を有しているケースが多く、収入が多いゆえにお祭りに財力を投入することができたのだと推測できます。
古い産業、例えば蚕や絹などの衣類系。また、港町など漁業が盛んな土地でのお祭りも多いものです。八王子も俗に「絹の道」と称された絹の産地、紡績の歴史があり、貿易港への輸送強化でJR横浜線ができたという話もあります。
「この街でどんな産業の歴史があったか」を調べてみるのも楽しいです。
5.山車の種類と分類
山車には江戸型、など色々な種類があるのですが、専門家でも分類しきれないほど全国各地で様々な形の山車が作られているのだそうです。
山車の解説はこのサイトが詳しいです。
祭りだ!山車だ!