地域活性化に加えて2014年9月に掲げられた地方創生ですが、期待する効果があがらないまま5年が経過。
そもそも地方創生とは何か理解しにくく、地域活性化のために何をすればいいかわからないという人も多いように思います。
まずは知識をつけることが第一歩で、そのための書籍も色々と出版されています。
今回は、地方創生や地域活性化にかかわる書籍について、紹介していきます。
目次
初級者向けの読みやすい本
01.地方は活性化するか否か(著者:こばやしたけし)
『地方は活性化するか否か マンガでわかる地方のこれから』を読みました。
地域を活性化しようとするときに、多くの人がついついやってしまいがちな「共通の間違い」があります。その間違いを予防するワクチンみたいな本でした。
地域に貢献したいけど、何をしていいか分からない人におすすめです。 pic.twitter.com/6uJMbfLlYS
— 鹿島ろっ子@鹿行を応援する人 (@gambare_kashima) 2018年12月2日
マンガ形式で地方活性化の現状と対策を知るための、初心者向きな1冊。ゆるふわな女子高生たちが繰り広げる、コミカルさも交えつつ真剣な内容です。
秋田県のとある都市にて、自分の将来と上京するかを漠然と考える女子高生たち。ふと「私たちの街って最近にぎわいが無くなったよね」という疑問から、地元の活性化に興味を持ち始める。地元のために何かしたいという気持ちが芽生えたとき、同級生から「すでに地元の失敗事例があるから行動するだけ無駄」と指摘があり……。
地域活性化は色々な地域や性格の人間が関わることで、客観的視点やアイデアが出るもの。それを「よそもの、わかもの、ばかもの」と表現する点に触れており、登場人物がそれぞれの役割を持っていることで色々な角度から会話が弾んでいきます。
マンガの各章の終わりにはミニコラムがあり「地方の人は歩かない」「空きテナントに葬儀店が入る」などの話も書かれています。
秋田県出身の漫画家である著者の経験も踏まえた内容。2016年2月開催「地方創生サミット」にて、初代地方創生担当大臣の石破茂氏と著者の対談でも用いられた本です。
・経済系の文章や本が苦手で抵抗感なく軽めに知識を得たい人
・無知識で最初のきっかけとして地方活性化の現状を知りたい人
・地域に貢献したいけれど具体的に何をすればいいかわからない人
02.凡人のための地域再生入門(著者:木下斉)
地方で起業して商店街を再生していく物語をライトな小説形式で楽しめる、初心者から上級者まで幅広く勉強になる1冊。
東京の中堅メーカーで働く33歳の瀬戸(主人公)。母親から「実家の店を閉める」と相談があり、廃業手続きのために新幹線で実家へ足を運ぶ。市役所での手続きの際に、元高校同級生で市役所に勤める森本から地域イベントの手伝いを押し付けられて、地元の疲弊した現状を知る。
そんな折、地元で大人気と噂のレストランに訪れると、元高校同級生で店のオーナーである佐田の姿が。店の人気の理由を聞くと、商売成功のコツを知る佐田の受け答えに圧倒。そして、実家を廃業せず活用できないかという話に発展し……。
高校の同級生だった3人が三者三様に活躍する話。筆者によると、地域再生におけるロジック(手法)に加えて、現場で活動する人たちのエモーション(気持ち)の部分に重点を置いた内容とのことです。
本の内容は創作(フィクション)ですが、そのベースは20年以上に及ぶ筆者の苦労した実体験が元。高校在学中に早稲田商店会の活動に参画して以来、事業開発や地方政策に関わり続けている筆者による「地域再生のための実践本」に仕上がっています。
なお、ストーリーに登場する「株式会社ままま」は、筆者が関わっている愛知県春日井市の勝川商店街にある小さな複合商業施設「ままま勝川」が由来のようです。
・地方交付税や補助金の使われ方と根本課題について知りたい人
・地方で起業する際のスタートから事業拡大への流れを知りたい人
・地域貢献の実践的な方法と回避すべき失敗事例を網羅的に得たい人
03.静止力(著者:えらいてんちょう)
堀江貴文氏の名著「多動力」を認めつつも、その問題点について指摘をする1冊。「地元の名士になりなさい」をサブタイトルとして、地元での貢献度や人間関係の意味合いと効果を解説した内容です。
堀江貴文氏の多動な生き方(多動力)は素晴らしい一方で、それは全国各地で地元を守る人たちがいるからこそ成り立つもの。誰しもが多動な人生を歩めるわけではなく、多動な生き方ができるのは若いうちだけで誰にも適用できる考え方ではない。
そこで、地元で長く生活するために重要な考え方を「静止力」として、地元で力をつけて名士になるための方法を解説。著者が作成した「名士ランク」をもとに、読者の立ち位置からさらにステップアップするために何をすればいいかを説明。
西武池袋線の南長崎駅付近を拠点にした生活を踏まえて、起業を経てイベントバー「エデン」を数店舗展開する著者。地元での交流を大切にして長く関係を築くことで得られる信頼とその効果について、事例も踏まえた解説がしっかりなされています。
巻末には「しょぼい喫茶店」店主との対談も用意されています。
・ノマド、移住など多動な人生への称賛に疑問を持つ人
・地元に貢献し活躍するためにすべきことを知りたい人
・東京都民も東京都を地元として貢献方法を知りたい人
04.天草エアラインの奇跡(著者:鳥海高太朗)
熊本県の天草(あまくさ)地方にある地方航空会社「天草エアライン」にて、開業3年目で赤字に転落してから苦労を経て黒字化を果たした企業再生ストーリー。
2000年に開業した日本初の第三セクター航空会社となる天草エアラインは、短時間で天草へ往来できる手段としてにぎわったものの、開業3年目で早くも赤字へ。さらに4代目社長による過度なコストカットにより遅延や欠便が増える悪循環で信頼が落ち、社員の士気も下がる最悪の事態に。
倒産の危機から熊本県が支援に入り、立て直しとして新社長に迎えられたのが奥島透(おくしまとおる)氏。まず「社長室は不要だから壁を壊してください」と社員に命じ、最初は疑心暗鬼だった社員と打ち解けるところからのスタート。
次第に心を開いていく社員からアイデアを引き出し、さらには天草出身でくまモンを生み出した小山薫堂氏や飛行機マニアのパラダイス山元氏も改善に参画するようになり……。
もともと整備部門出身としてJAL(日本航空)で活躍していた奥島透氏のリーダーシップと、社員ひとりひとりが経営者だというアイデア捻出のロジックを精細に描いた内容。航空・旅行アナリストの鳥海高太朗(とりうみこうたろう)氏による著書です。
・観光分野で地方創生関連の小チームを運営、育成する人
・熊本や天草、企業再生のサクセスストーリーが好きな人
・航空会社のルールや事情を経営や社員目線で知りたい人
中級者向けの新たな気づき本
05.地方創生大全(著者:木下斉)
木下斉さんの『地方創生大全』を読んでます。広島で空き家修復&活用されてる人伝てに木下さんのことを知って、良いお顔をされてると感じたので本を読むことにしました。 pic.twitter.com/lBjjn6Y5g0
— 笹岡泰満 (@sskysmts) 2019年3月4日
地方創生や地域おこしにおける各種資源ごとの視点から問題点を指摘する1冊。前述の「凡人のための地域再生入門」著者による、体系的に記述された本です。
地方創生事業や地域おこし事業において、失敗事例や成功と見せかけて赤字化している事例が多く生み出されている現状の課題について解説。
ネタ、モノ、ヒト、カネ、組織という5つの視点(資源)を章単位に分類して、事例を交えて問題点を挙げていく。
各テーマについて問題点を3つ挙げて説明に入るなど、章立ての整った構成。扱うテーマはゆるキャラ、B級グルメ、公園の活用、行政予算など様々。現状のあらゆる地域おこしの取り組みに対して、筆者の経験をもとに問題点を掲げていきます。
・ここ数年の地方創生取り組みに疑問を持つ人
・地方創生に馴染みが無く社会問題として関わりたい人
・地方創生の全体像よりもテーマ別に課題と解決法を知りたい人
06.外国人観光客を呼ぶ日本の勝ちパターン(著者:石井至)
日本の観光地に外国人観光客が訪れる「インバウンド」について、現状や課題とともに新規観光客を呼び込むための具体的なステップを示した1冊。
当著は、訪日外国人観光客の動向をもとに対策として有効な「セグメント」と「ファム」の手法を具体的に解説。
1~2章では成長めざましいインバウンドついて、データを交えて現状を説明。3~5章ではセグメントというマトリックスを用いて、特定の国へアプローチを絞るマーケティング手法の紹介。
6章は北海道釧路市を事例として、外国人宿泊客の目標人数の設定と具体的な対処エリアを決める方法を紹介。7~8章ではファム(ファムツアー)と呼ばれる視察旅行を企画して外国人ジャーナリストやブロガーを数名呼び込んでテストマーケティングをする手法を具体的に解説。
9章からは外国人観光客が日本のどこに魅力を感じるのか、そして国によっても嗜好が異なる点を筆者の主観も交えて列挙。最終13章で観光関係者の意識改革の必要性について説明して締めくくる内容。
釧路市政策アドバイザーをはじめとして、北海道や国機関における有識者を担う石井至(いしいいたる)氏。日本の各観光地や市町村が「おらが町」と勧める観光地と、外国人観光客が日本に求めるものや魅力と感じるスポットとのズレ(ギャップ)について、書籍全体を通して徹底解説されています。
・外国人観光客向けの仕事をしている人やこれから始めたい人
・外国人観光客が殆ど来ない市町村でイメージがつかない人
・観光におけるマーケティングの考え方を知らない人
07.日本再興戦略(著者:落合陽一)
“日本人は仕事と生活が一体化した「ワークアズライフ」のほうが向いています。”(p40)
これからどういきていくかは常に課題になっています。仕事と生活を一体化させる道を模索してみるのも良さそうです。#本好きな人と繋がりたい #本の話をしよう#落合陽一#日本再興戦略 pic.twitter.com/RD9hFdiZgL
— 井田祥吾📚 (@shogogo0301) 2019年8月27日
メディアでお馴染みの落合陽一氏による、日本の将来動向を解説した1冊。大学教授や研究を行いつつ最先端技術などに詳しく、若いセンスを持つ落合氏の鋭い視点がある内容です。
高度経済成長の成功理由は「年功序列による給料上昇」「住宅や車のローン構築による給与からの定額引き去り」「メディアによる消費購買意欲喚起」で政府が大衆をコントロールできた3点。
この経済成長の手法は効率的だったと言う一方、これからの人口減少時代には通用しないと指摘。人口減少の局面では「機械化を有利とみなす文化」「教育の再構築」が大事と説き、本書全体でデジタルの各種テクノロジーを交えて日本の未来の予想図を描いた内容。
IoT、シェアリングエコノミー、5G、トークン(独自通貨)など、地方の可能性を見出せる次世代の項目それぞれについて解説しながら、日本の未来について語る内容です。
・デジタル時代の視点で地方創生や地域活性化を捉えたい人
・人口減少が問題だと言われる風潮に疑問を持つ人
上級者向けの専門的な論述本
08.これからの地域再生(著者:飯田泰之、他6名)
土地、商業、農業、起業家などの分野における地域再生の現状課題と対策について、各分野のエキスパートとなる7名の専門家が各パートを執筆して1冊にまとめた専門書。
当著は、中心市街地人口10万人規模の中規模都市がメインターゲット。スケールメリットを活かしつつ大規模都市の過密非効率さも無い、最も効果的な地域再生を図れるのが中規模都市であることを序章で解説。
そして、センスある都市に人が集まることを論じた1章、農工商の都市開発の歴史と発生問題をひも解く2章、不動産オーナーではなく商売の担い手にフォーカスした建物利活用の3章、観光でフォーカスされにくい夜の経済活動による活性化を提唱する4章、地方で強固な地盤を持つ地方豪族にスポットを当てた5章、山口県山口市で実践されている地域住民のための農業を解説した6章。
マクロ経済学の分野でテレビ出演や明治大学准教授を担う、経済学者の飯田泰之がリーダーとして序章解説しつつ各章ごと約30ページを取りまとめた1冊。専門家視点の分析だけでなく事例を紹介した解説も徹底されています。
・農業、商業、芸術など分野ごとの地域再生手法を知りたい人
・地域再生や地方創生を職業にして活動する個人や企業担当者
・地域再生で一般的にもてはやされる手法に違和感を持つ人
まとめ
私たちの生活や将来において密接にかかわる地方創生ですが、小難しい書籍もありますので選定できるようレベル別に分類してみました。
私も最初は無知な初心者でステップを踏みつつ地方にも足を運んで理解していきましたので、自身のレベルをもとに書籍を選ぶのがオススメです。
地方創生は国民全員が深く関わる分野。誰もが行政サービスを受ける中で、人口問題による影響を受けています。少しでも「自分ごと」として考える人が増えるよう、書籍をうまく活用して学んでいくことが大事だと思います。
以上、地方創生・地域活性化のオススメ書籍の紹介でした。